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福岡地方裁判所 昭和32年(わ)790号 判決

被告人 高橋嘉照

主文

被告人を罰金弐万円に処する。

未決勾留日数中二十日を、一日を金二百五十円に換算して右本刑に算入する。

右罰金を完納することができないときは金二百五十円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(一)  犯罪事実

被告人は飲酒酩酊の上、昭和三十二年八月十四日午前四時半頃福岡市浜の町一番地福岡高等検察庁、同地方検察庁合同庁舎正面玄関前に赴き、同所で酔余「起きて出て来い」と怒号し、短靴を覆いた右足で閉鎖中の正面玄関門扉の硝子板を二、三回蹴りつけ、因つて右門扉の硝子板一枚(時価四千円位相当)を破壊し、以て器物を損壊したものである。

(二)  証拠(略)

(三)  被告人並びに弁護人の主張に対する判断(略)

(四)  法令の適用(略)

(五)  検察官は本件は建造物損壊罪であると主張するので、果して被告人が損壊した本件扉の硝子が建造物の一部を構成するものであるか否かについて、当審検証調書、大林組福岡支店建築部作成の説明書福岡高等検察庁会計課長柴尾富造作成の被害届、福岡地方検察庁検察事務官田川英雄作成の現場写真撮影報告についてと題する書面、証人古瀬輝政の当公廷における供述を綜合して検討してみる。損壊された本件ガラス一枚は福岡高等検察庁、同地方検察庁合同庁舎正面玄関の門扉四枚の内、中央に取り付けられたフロアーヒンヂ式両開扉二枚の中の右側扉の下段に取り付けられたガラスである。右両開扉は厚さ約一・六ミリのスチール製のものであつて、損壊されたガラスは縦約七十九糎、横約七十八糎、厚さ約六粍で、これを右門扉の一方の側より扉の四辺に付けてある鉄枠にはめこみ他方の側からガラスの四辺の上を鉄製棒で押さえ、鉄枠、鉄製棒は、もくねじビスでしめて固定してあつたものである。従つて、ガラス板そのものはもくねじ、ビスをゆるめて鉄製棒を取り去れば何等門扉を毀損することなく容易に取り外すことが可能であると認められる。本件の如き門扉の構造は、ガラス板を門扉に固着させて取り外しを不可能乃至は極度に困難なものにしてある構造の門扉に較べると、その取り外しが簡易、簡便なものであると認められる。また一般に、ガラス板は比較的分厚なものを使用してある場合であつても、鉄板等に較べれば破損し易いものであるから、ガラス板を門扉や窓に使用するには、破損の場合を考慮に入れて、容易にその取り外し、取り替えができるように取り付けの構造を設計するのが通常であつて、本件門扉並びにガラス板についてみても、その取り外し、取り替えの簡便を度外視して設計されたと認むべき特段の形跡は何等存在しない。以上の諸点より考察すれば、法的には本件ガラス板は構造上門扉の一部を構成せず、門扉そのものとは別個の物として評価すべきものと考える。従つて、それはまた建造物の一部を構成するものとは言えない。されば、本件については建造物損壊罪は成立せず、器物損壊罪として処断すべきであると言わねばならない。

(裁判官 小松正富)

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